コラム4 なぜヒトのシグナルを研究しているのか
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ただし、サイモン・バロン=コーエンなどの著書から、心の理論が領域固有の進化の産物であるという考え方には納得していたものの、それがどうやって進化可能であるのかについては納得の行く説明がないように思われた ところが、ゲーム理論的に考えると、相手を出し抜くためには推論のレベルを1つ下げてもよいのだ そうすると、推論合戦によって本当に心の理論のレベルが上っていくとは必ずしも言い切れない
謝罪にもコストをかけたほうが正直さが伝わるだろうというアイディアを簡単なシナリオ実験で検討してみた シグナルとしての謝罪研究を続けているうちに謝罪する人が伝えている誠意こそ、心の理論を使って推論する対象ではないかということに気づいた 発想の転換をもたらした
心の理論は相手が隠している心の状態(搾取的な意図など)を読むために進化したと思っていたが、むしろ相手がシグナルを通じて心の状態を見せてくれている時に、それを適切に読み解くために進化したのではないか
このように考えたことで、謝罪だけでなくその他の対人的なシグナルについての研究も行うようになった
私は自分のことを進化心理学者だと考えているが、最近では少しずつ進化心理学の殻を破ってみたいという気持ちになってきている
例えば、HBESではあまり見かけないfMRI研究にも挑戦している シグナル授受の神経学的基盤も知りたいから
これは現在の進化心理学に不足しているものの、本来必要な拡張だと思っている
fMRI研究はメカニズムの理解を深めるために不可欠であるし、可能であれば内分泌や遺伝的基盤も探ってみたいと思う